【あんスタ】≪1.5部夢ノ咲編まとめ②≫各章読解~第1章『セブンブリッジ』~

※この記事は2023年3月12日時点で書いた内容をそのまま転載したものです。その後の実際のストーリー展開等は踏まえられていません。

全体を通して貫くモチーフ:トランプ

 1.5部各章の章題はトランプゲームに関わる単語になっています。『グランドスラム』以外の3つはそのままゲーム名で、『グランドスラム』はゲーム『コントラクトブリッジ』における完全勝利を指します。各元ネタゲームとスト内容の関連性については、各章セクションの「章題考察」にてまとめています。

 7周年(七不思議)⇒ ラッキーセブン ⇒ カジノ ⇒ トランプ の連想によるところが大きいと思われますが、最終的に礼瀬マヨイの掘り下げに繋がること、黒根ひつぎが53番目(54番目)の登場キャラクター(※)になってトランプのジョーカー相当の立ち位置になぞらえられることも関連しているのかもしれません。

※氷鷹誠矢をいれると54番目になるはずですが、23年2月現在、何故か公式サイトの”OTHER CHARACTERS”には誠矢がいないので公式サイト上のカウントだと53番目になります、数え間違いでなければ……。どちらにせよジョーカー2枚(計54枚)とすれば数は合うのでまあいいか程度に深読みしています。でもジョーカー2枚で言うならひつぎとNEGIでカウントする方が綺麗ではある。十条要については扱いが複雑なのでカウントに入れていません。NEGIをカウントに入れるなら入れるべきでは?(終わらない計算)ちなみにゲパが初登場したときはそこで「(誠矢を数えて)53番目だ!ジョーカーだ!」と数えていました。ゲパがジョーカーの方が喩え的にはしっくりくるなと思っています。

第一章『セブンブリッジ』

📝 ≪ポイント≫セブンブリッジ - 7周年、トランプゲーム、七夕、橋渡しと要素盛りだくさんの章題 - ひつぎを通した『プロデューサー』の再定義と、プロデューサーのスタート地点七夕祭からの再出発 - 『原点回帰』と絡めて美味しい「変わったもの/変えたいもの/変えたくないもの」

■章題考察:取捨選択と橋渡し

ルール参考:https://www.nintendo.co.jp/others/playing_cards/howtoplay/seven_bridge/index.html

 トランプゲームの意味だけでなく、七夕とも重ねられたかなり盛りだくさんの章題です。

①メタ要素:7周年に展開される七夕祭舞台の七不思議の話のはじまり

 おそらくスタートラインはこの要素。前述の連想でトランプまでたどり着いて、7に関連するトランプゲームの連想でセブンブリッジ、7並べセブンアップあたりが候補になったのかなと推察しています。そこに七夕要素を加えるとセブンブリッジがかなりしっくりきます。もくしくはテーマ読解で詳述の通り、七夕祭は『原点回帰』の意味でも納得の舞台設定なので七夕祭ありきの連想の可能性もあり。

②ゲーム:セブンブリッジにおける『取捨選択』

 セブンブリッジは手札を取捨選択しながら役を作っていくゲームですが、スト内では凛月がKnightsの戦略について言及する場面(ヘイトコントロール7話)で決断によって得たもの/失ったものがあることを示されます。そのほか、撤去されてしまう慰霊碑や嵐の心情などでも時の流れの中で「捨てられてしまうもの」について語られます。

③七夕:鵲のかける橋と男女の/分断された者たちの逢瀬

 「七夕」で連想されるモチーフ、男女の分断と鵲のかける橋。ストーリー内では嵐やNEGI、Pを中心に、これまでほとんど触れられてこなかった女性アイドルたちが同じ舞台に上がってくる展開が描かれました。そのほかにも、この章では数多くの分断が描かれ、それらが舞台の上で交わっていきます。

■テーマ読解:数々の分断とプロデューサーの再定義

 「分断夢ノ咲」のイベントタイトルに違わず、今イベントでは数々の分断とその融合が描かれました。

  • 男女アイドルの分断
  • 嵐と『あの人』、生者と死者の分断(とそれを超えた存在のNEGI、超えんとする『神父』)
  • UNDEAD中心に卒業生と在校生の分断
  • アイドル科とプロデュース科の分断
  • 平和党とそれ以外の分断
  • Knights中心にESと夢ノ咲の分断
  • 各ジャンルの分断

 七夕は分断された恋人の逢瀬がロマンチックな伝説ですが、あんスタにおける七夕祭も、初年度時点で「わだかまりがあるRa*bitsと紅月が同じ舞台で和解する」という側面がありました。

 七夕祭はそれだけでなく、スト内でも言及される通り「転校生の最初のプロデュース企画」の側面も持ち合わせています。ズ!メインスト第一部におけるプロデューサーはあくまで「トリスタの一員」だという印象を受けますが、学校全体が関わる七夕祭を手がけることで、「みんなのプロデューサー」への一歩を踏み出しました。

 プロデューサーの原点として印象的な七夕祭を題材にして、今回のスト内ではプロデュース科に入りたてのひつぎとの交流を通じて『プロデューサーの役割』が再定義されていきます。

 

 「二年生のプロデュース科転入生(全くの素人)」というズ!の頃の転校生と同じ属性を持つひつぎは、かつての転校生と同じく「プロデューサーって何?」レベルからのスタート。そんなひつぎが出した『プロデューサーっぽさ』の答えは「ボクたちは舞台と、それを繋ぐ橋を用意しただけ」(エピローグ①)。アイドルとファン、アイドルと企画、アイドル同士、ほかにも色んなものの間を繋ぐことがプロデューサーの役割だと示されたのです。

■テーマ読解:取捨選択と変わるもの/変わらないもの

 ストーリー中では「夢ノ咲の慰霊碑が取り壊される」という事件が大きな波紋をよんでいきます。この不可逆的な変化はズ!⇒ズ!!へと大きく変わったあんスタそのものに重なり、嵐の反発は一読者として自分を重ねてしまう部分がありました。

 

 ズ!!へ進んだ上で回帰してきた夢ノ咲は、旧三年生は当然いなくて代わりに新入生が沢山いたり、真緒が生徒会長だったり、アイドル科とプロデュース科はもう別教室だったり、と同じようで同じではありません。みかがPに対してハリネズミ的ではない春の情景にも時の流れを感じるものです。それらの変化の中には、みかとPが仲良くなっていることや部長として頑張るアドニスなど、「時が進んで良かった」と嬉しくなるものももちろん山ほどあります。一方で『平和党』/ESとの諍いや燻っている晃牙を見ると、「こんなことなら時間なんて進まなければ良かった」と思ってしまうことも、いくつもあります。

 それでも進んだ時は戻しようがなく、どんなに全部抱えて歩こうとしたって、前に進むと言うことは「選ばなかった方の道」や「進む前の自分」とは別のものになっていくということです。何を取り、何を捨てるか。セブンブリッジの手番よろしく選択を迫られるアイドルたち。その「捨てられるもの」のなかには夢ノ咲の慰霊碑のように、多くの人にとっては触れ難い、できれば「なかったこと」にしてしまいたいものもありますが、鳴上嵐にとっては取り壊しを知って取り乱してしまうほどに大事なものです。たとえそこにかけられる想い(『あのひと』を忘れない自分でいるためのよすが、エピローグ④)が慰霊碑制作者が込めた想い(ゴッファが愛したアイドル(明星父?)の墓?、エピローグ③)とはかけ離れたものであっても、なかったことにできるはずもありません。

 嵐が取り乱した原因も、「『あのひと』を忘れてしまう自分」に変化してしまうことへの恐怖でした。根っこにある「愛されたい(アタシを見てほしい)」を、愛してくれた『あのひと』の思い出で満たしてきたのに、突然の慰霊碑撤去で安定は崩壊して変化を迫られます。この崩壊は二つの解決につながります。

①『常に愛される自分』で在る

 「愛し愛されるために生まれてきた」のだから、それを全うできるように振る舞おう、という解決。舞台の上で曇り顔は似合わない。

②ひとりでは捨ててしまうものも、みんなで拾う

 しかし、上記の解決では結局のところ悲しみを飲み込むだけで、『あのひと』が忘れられてしまう可能性には変わりがありません。取捨選択で捨てられてしまいそうになったのを拾い上げたのが、ひつぎの「『あのひと』の曲をみんなに覚えてもらう」作戦でした。ひとりでは抱えきれずに取りこぼしていたものを拾い上げて、誰かに繋ぐ。再定義された『プロデューサー』の役割に近い振る舞いです。

 慰霊碑以外にも、ESと夢ノ咲のはざまでKnightsの取捨選択も非常に印象的に描かれていました。特に凛月が何もしないという選択/『何もしなかったという罪』に言及し、それを背負うと言った(ヘイトコントロール7話)のは、アフタヌーン等ズ!のストでの凛月の後悔が思い起こされ、説得力と凛月自身の前進による変化を感じました。場面設定がガーデンテラスだったのも、アフタヌーンに執着し続けている一読者としての深読みポイントです。

 嵐に寄り添うみかも、今回の『取捨選択』というテーマにおいては色々と考えたくなる存在です。みかの大きな柱である「何も捨てられない」。変化という観点でも、「周りがどう変化しようとも、自分の道をひた走るのがおれたち『Valkyrie』」(ラブアンドピース?5話)と、今回のテーマに対しての立ち位置がかなりはっきりしています。ズ!の頃はみかの揺れ動きに嵐が寄り添う場面が多かった印象ですが(スタフェスなど)、セブンブリッジに関してはむしろみかの方が安定し、ナビゲーター的なポジションも担っています。みかがこれまで嵐から受けてきた愛を愛で返していく流れがブラックジャックまで繋がっていくところも、みかの変化を感じられて好きです。

 変わることへの反発、そして変化の中でこれまでに取りこぼされてきた様々なもの(SS編までの裏側での夢ノ咲やP、シリーズ全体を通しての女性アイドル、その他諸々)を拾い上げ、つなげていく物語であり、その役割を担う存在としての『プロデューサー』が示されたのかなと考えています。

 

おまけ)エピローグ⑤でひつぎが『神父』と電話する場面は『神父』の言動が垣間見えるシーンですが、Pを心配するひつぎに対して「抱えこむのはひつぎも同じ」と言ったり、荒削りなはずの『あのひと』の歌について「良い曲だね」と評価してみたり、SSでの日和擬態時言動とはまた違った雰囲気を感じて情緒がめちゃくちゃになります。今回はひつぎの聞き返し状態なので、直接的な描写なのはSS時のほうですが。