【あんスタ】≪1.5部夢ノ咲編まとめ①≫総論:1.5部の立ち位置

※この記事は2023年3月12日時点で書いた内容をそのまま転載したものです。その後の実際のストーリー展開等は踏まえられていません。

2022年のテーマ『原点回帰と新たなチャレンジ』

 SS編最終章『SS』更新の真っ只中である2022年1月1日、あんスタ公式Twitterで毎年恒例の年始ツイートが公開されました。

 掲げられた運営の2022年の抱負は『原点回帰、そして新しいことにもチャレンジ』。1.5部とは何だったのか、を端的に表すとすれば、この『原点回帰と新たなチャレンジ』に集約されると言えます。

■先へ先へと進み続けたSS編

 SS編はズ!!メインスト第一部(以下、MDM編)の続編でありつつ各ユニットストーリーの掘り下げも他ユニットとの交流を通じて描いており、十二分に“あんさんぶるスターズ”らしいと感じられるものではありました。

 しかし、3月に返礼祭相当をしてループするという一年の区切りが無くなっているズ!!でSS編は明らかに起承転結の承相当であり、未来に解決すべき問題が山積みな状態で幕を閉じられてしまった印象でした。同じ一年(追憶を入れても約2年と少し)を何年も繰り返してきたズ!からすると、このまま先へ先へと進まれるのはかなり薄味に感じられましたし、ポッと出の印象が強い『神父』が全てを背負う悪として排除されて終わり……というのにも正直拍子抜け感があります。MDM編~SS編の時系列もかなりタイトで、この先どうしていくんだろう、という不安がなかったとは言えません。

 そんな折りに掲げられた『原点回帰と新たなチャレンジ』。年始ツイート時点では詳細はまだわかりませんでしたが、そこに込められた意思表示に興奮したのは1月10日に予告されたトリスタ新曲イベント『Focus*ファインダー越しの四季』でした。

■ファインダー越しの四季と夢ノ咲への回帰

📝 ≪ポイント≫ファインダー越しの四季

  • 夢ノ咲学院が主要舞台に回帰
  • トリスタの“はじまり”を象徴する桜モチーフ(春待ち桜、桜フェス)
  • ズ!の区切りである卒業を彷彿とさせるストーリー
  • P(転校生)にもつながる「ファインダーガール」

 夢ノ咲を舞台にしたMVまで公開されたときの衝撃たるや。ガツンと『原点回帰』をぶつけられて懐かしい気分になりつつ、トリスタ世代の卒業を話題にする一区切りのようなストーリーに情緒はぐちゃぐちゃでした。『原点回帰』はこの一回のことでそのまま先に進んでしまうよという宣言なのか、それとも今後も同じ時系列内で夢ノ咲中心の物語をやっていくつもりなのか。その不安への答えになったのが1.5部『夢ノ咲七不思議編』(以下、夢ノ咲編)です。

📝 ≪ポイント≫夢ノ咲編

  • 夢ノ咲学院が舞台
  • 時系列は進まず、MDM編~SS編の裏側を描く
  • ズ!でも何度か描かれてきた七不思議や七夕等の校内ドリフェス、学校行事が題材
  • P(転校生)にもかなりフォーカスする内容
  • プロデュース科新キャラクター黒根ひつぎ(NEGI)の登場

 ファインダーと同じく夢ノ咲を主舞台に、SS編では意図的に排除されて大筋に関われなかったP(転校生:以下、P)を物語の中心付近に据えて、これまで描かれなかった物語の裏側部分を描いていく。その在り方は同じ時系列を約5年間、多角的に掘り下げ続けてきたズ!のそれに近いものと言えます。

■黒根ひつぎ/NEGIの存在

 一方で、ズ!ではたった一人だったプロデュース科にネームドキャラが実装されたという新展開も重要です。ほかにもこれまで名前、姿や声を与えられてこなかった、あの世界で女性として生きてきた存在(サドンデスの桜河姉のような例外はありましたが)にも『NEGI』という名前と声が明確に与えられました。SS編ではポッと出感が否めなかった『神父』にも少しずつ輪郭が生まれ、SS編の流れがだいぶ腑に落ちてくる展開もありました。

 描かれなかっただけで裏側にはいた存在に名前や声や姿を与えることで、新しいものが見えてくる。それを何度も何度も繰り返す。ズ!でも新キャラクターが登場する度に感じてきた衝撃を思い出しました。三毛縞斑みたいな存在には3周くらいしないと出会えなかったものです。

 原点に回帰しながらも、回帰した主体は進んだ先ですでに経験を通じて変革している。螺旋のように、同じ場所のようで同じでない。それがズ!を踏まえての夢ノ咲編の印象です。この印象を特に感じられるのが第一章『セブンブリッジ』です。夢ノ咲編各章については「各話読み①:1.5部各章読解」セクションにて語っていきます。

 また、ひつぎはズ!の頃のPを思わせるような設定で登場しました。素人P、高校2年の転校生。NEGIの『女性』という属性も加味すると、いよいよもって黒根姉弟にPの姿を重ねてしまいます。ひつぎの方は復讐やオカルトに興味がありますが、NEGIは歌うことを重要視しており、一つの身体に内包されるオカルト要素とアイドル要素の相反や混ざり合いが、キラキラアイドルものと政治・宗教・陰謀・革命などを共存させているあんスタの在り方と同じようにも感じられました。

土着信仰の話題とアイドル史の連結

 『原点回帰』以外で夢ノ咲編を通じて行われたことのひとつには『土着信仰(奏汰周辺の話題)とアイドル史(ゴッドファーザー:以下、ゴッファ)の連結』があげられます。

■土着信仰の話題の合流

 奏汰を中心とした一連の土着信仰の話題はズ!中盤頃から描かれ、奏汰/斑/颯馬を語る上で欠かせない要素となっているだけでなく、英智/日和/司/桃李/敬人などのバックグラウンドにも深みをプラスしている設定です。ズ!!でも当初からマヨイの関連が匂わされていたり、SS編『サブマリン』などでも大きく扱われたりしてきましたが、ゴッファ以来のアイドル史がフィーチャーされがちな『大きな流れ』から見ると、あくまでサブストーリー的な立ち位置にありました。

 しかし、夢ノ咲編においては、ズ!で約5周もしたのに見えなかった『夢ノ咲の地下』の秘密に『神父』関係者のひつぎが迫ることで、土着信仰の話題はメインストの大きな焦点の一つになりました。特に第二章『グランドスラムでは、アイドル達が地下の秘密に触れたことをきっかけにES上層部(『神父』ら)が大きく動く展開が描かれます。以後もゴッファ関係の話と地下関係の話が絡み合いながら説明されていく流れは非常にワクワクしました。

■マヨイの素性と本筋の重なり

 また、地下世界のナビゲーターとして重要な役割を務めたマヨイの背景も第四章『ブラックジャックにかけて明らかになり、ズ!!開始以来の謎の一つが解決しました。この謎の解決も夢ノ咲編の目的の一つ(奏汰の場合の「生き神様」設定開示相当)であると思われますが、明らかになったその素性はこれまで語られてきた土着信仰をさらに別側面から見られるものでした。土着信仰についてはこれまでも、深海家側/天祥院家ら地元有力者側/第三者の蓮巳家側/千秋なりの解釈、など様々な形と解釈で語られていますが、そのどれとも違う新たな視点が、マヨイら地下の民の存在で描かれています。

 マヨイの一族は地下に潜み、まさしく「居るのにいないもの」として振る舞い/扱われてきた者たちでした。しかし彼らや奏汰は同じ人間で、『悪いもの』を鎮めるために歌う生き神さまは『アイドル』の似姿でもあります。物語の裏側にいた存在にスポットをあて、物語の本筋に組み込んでいくのが夢ノ咲編の意義の一つであり、その流れの一環として、サブストーリーだった土着信仰の話題も本筋のアイドル史に組み込まれていくのです。

『流星隊パワーアップ』と『追憶セレクション』への流れ

 夢ノ咲編では多くの在校生キャラにスポットがあたりましたが、その中でも特に焦点的に描かれていたと感じるのが流星隊二年生組夏目です。

■流星隊二年生組と1.5部

 翠が星5、鉄虎が星4となった第三章『ハイアンドロー』は翠と鉄虎の関係が大きく扱われ、それぞれの前進を感じられるストーリーでした。忍が星5の第四章『ブラックジャックにおいても鉄虎はかなり丁寧に描写されており、着実に変化しているのがわかります。忍はマヨイとの関係性においても大きな役割を担いました。MIRAGEなどともあわせて流星隊二年生にひストが多めに割り当てられた一年でした。(アストレアの工房の千秋、色彩百花の奏汰も含めると本当にひストの流星隊が沢山見られた一年だったな……と感じます)

 詳細については各話読みの項目に回しますが、the Universeに至る鉄虎の物語を考える上では、23年2月現在の公開ストの中では夢ノ咲編が非常に重要な役割を担っていると思っています。正直コメットショウからここまで引っ張るとは……と思わなくもないのですが、引っ張った分、イベントのユニット縛りがかなり緩くなった3年目に何度も何度もひストを流星隊二年生(特に鉄虎)にあててthe Universeに向かう流れが作れたのは良かったのかなと感じます。the Universeについては「各話読み②:1.5部の周辺ストーリー」の項目でも触れていきます。

■逆先夏目と1.5部

 夏目が特に存在感を示したのが第二章『グランドスラム第四章『ブラックジャックでした。サブストーリーがひとつの大きな流れの中に絡められていく中で、本流から取りこぼされてしまう存在たちの方を向いている夏目の立ち位置は要注目です。

 こちらも各回の詳細については各章読解の方に回しますが、夏目は本来ゴッファ周りとも土着信仰まわりとも直接的な接点がなく、ESサミットにもつむぎはいても夏目本人はおらず、主流にかんでいく立場にありません。そんな夏目が夢ノ咲を主戦場に、大きな流れに一枚かんでいこうとする流れが非常に印象的でした。立ち回り方にヒヤヒヤもしましたが……。ブラックジャックで、これまで救ってきた人たちからの感謝を受けて肩の力が抜けたりしたあたりも含めて、夏目も丁寧に描かれていたように思います。

 夢ノ咲編の今、夏目(とその周辺)にスポットがあたるのは、ひとつには2023年の『追憶セレクション』展開へのブリッジ的な意図があるのだと思われますが、やはり「取りこぼされてきた=居るのにいなかった」存在たちの代表という側面もあるのかも、と考えています。

(まとめ)1.5部で描かれたもの

 ズ!!3年目、起承転結でいうなら転結へ向かっていく折り返し地点にあたり、現時点での様々な話題の流れ(ゴッファ関係、土着信仰の話題、夢ノ咲での勢力争い)の接点が夢ノ咲編で生まれました。既存の問題を再提示し、これまで裏側にあった存在たちが浮き彫りになることで新たな問題も見えてきます。

 原点回帰した夢ノ咲は懐かしいようで、かつての学院と同一ではありません。変化の中で得たもの/失ったものを確認しながら、回帰のその先へ向かって変化するための道筋が描かれました。