【あんスタ】≪1.5部夢ノ咲編まとめ⑤≫各章読解~第4章『ブラックジャック』~

※この記事は2023年3月12日時点で書いた内容をそのまま転載したものです。その後の実際のストーリー展開等は踏まえられていません。

第四章『ブラックジャック

📝 ≪ポイント≫ブラックジャック

  • 1.5部の真相、2部の裏側にいよいよ迫っていくスリル
  • 忍が語る「無駄なことなんてない」の意義
  • クリスマスに贈られる進んだ先の報い

■章題考察:禁忌への接近と、ひとりではないこと

ルール参考:https://bright777.com/rules_blackjack

 カードを使うカジノゲームの代表格。ディーラーvs.プレイヤーの構図が『神父』vs.アイドルたちを彷彿とさせます。黒スートのマヨイや“黒”根にもひっかけているのかなとも深読みしています。

「神に近づきすぎると翼をもがれる」スリル

 ブラックジャックは「合計21を目指すが、超えたらアウト」というスリルあるゲームですが、今話では『神父』や『悪いもの』に纏わる禁忌/秘密に近づいていく緊張感が章題に重ねられていたように思います。

 作中でひつぎが「禁忌に近づきすぎるような馬鹿はアイドル失格で干される」旨の発言をしつつ夢ノ咲も玲明も、と引き合いに出しますが(奇跡など起きない4話)、ゴッファに近すぎる血縁が故に干された十条要の存在が思い出される発言です。自らの意思で近づいた訳でもないのに生まれからアイドルとして詰んでた状態の要を思うと、なんとも言えない気持ちになりました。一方で、禁忌の方面には近づけていなかったとはいえズ!の頃自分たちで七不思議調査をやっていた葵兄弟はどこまで念頭に置かれた上での描写なのかな……というのは今後の展開上気になっているところです。

手札集め・力を合わせて解決する

 ブラックジャックはルール上、最低2枚のカードで勝負します。手札をそろえて勝つという点ではセブンブリッジなどの手役をつくるゲームにも通じますが、ブラックジャックの場合は不要だからと手札を捨てることはできません。たとえ一枚一枚は小さな数字でも、足し合わせることで勝てる可能性が出てくるゲーム。今回はハイアンドローからの流れを受けて、それぞれができることを自ら担ってスタフェス(副題【ブラックジャック】)を成功させるために動く話が展開されました。ひとりぼっちだった忍がはじめた忍者同好会に同じくひとりぼっちだったマヨイが加入してきた流れも合わせて、「ひとりではないこと」も描かれたのだと解釈しています。

1点にも10点にもなれるA

 忍と鉄虎の「忍の強さ」についての会話(奇跡など起きない11話)及びその後のマヨイと忍の「無力な生き物」の話(同12話)。状況に応じて1点にも10点にもなれるブラックジャックのAのように(そしてブラックジャックにおける点数の大小が強さとは直結しないように)人それぞれの強い/弱いが場面によって変わることにも擬えられます。

おまけ)黒根ひつぎの名前  設定公表時点で「黒根」⇒「ネクロマンサー」、死んだお姉ちゃんの器 ⇒ 棺、をかけているんだろうなとは思っていましたが、今回明かされる『神父』の意図を踏まえると「くろね」⇒ Clone ⇒ 「クローン」も多分かかってるんだろうなと思います。

■テーマ読解:忍者同好会と「無駄なことなんてない」

 今回のストーリーの感想をひと言で言うと「忍くんが優勝」なのですが、単純にそれだけで片付けてしまいたくない良さがあるので整理してみます。

 

 特に印象的だったのが、何でも受け入れる忍です。前半部分、忍はマヨイを探して地下に潜り込みますが、無理矢理外に連れ出そうとはしません。「引きこもっているのにも理由があるはず」と尊重しつつ自分の思いを素直に伝えるのみに留まります。ほかにも颯馬の生き様を「趣味が似てる」、マヨイの生態を「忍者としては見習いたいスキル」程度の認識ですんなりと受け入れています。

 忍が何でも受け入れられるのは、自身が「忍者ごっこ」をごっこだと認識しながらも真剣にやってきたことと、それを面白い個性程度に受け入れてくれた流星隊や、忍者同好会に理解を示してくれた真緒の存在が大きいと思います。みかに『時代劇コンビ』などとくくられますが、生まれながらに武家の子として育てられてきた颯馬と違って、忍はあくまで「忍者好き」が出発点です。颯馬の真剣に対して忍の手裏剣はゴム製で、フィクションの忍者と歴史上の忍者の違いも理解した上で自分なりの忍者観を構築して振る舞っています。自身が狭い意味での「本物の忍者」でないことを承知の上でロールプレイを大真面目にやる忍は、本物でなくても受け入れてもらえたのが嬉しかったのと同じように、にわかには信じがたい背景を持つ奏汰や颯馬やマヨイも受け入れられます。自分と違うから/自分が知らないからといって存在を否定することもしません、否定されない嬉しさを知っているから。単なる空想でも現実になることを知っているから。

 この忍の絶妙なバランス感覚はMIRAGEでの対ゆうたの態度にも表れていると思います。忍に改めて受けいれてもらえ、自身も憧れたアイドルになれたマヨイが「忍者同好会の私たちがみんなの夢を否定するわけにはいかない」と肯定していく様もとっても嬉しい描写でした(エピローグ②)。

 忍者ごっこは端から見れば『無駄なこと』として一蹴されてしまうようなものです。それでも忍者を愛し救われている忍だからこそ、「無駄なことなんて何ひとつないでござるよ」(奇跡など起きない12話)が重みを増して響きます。ハイアンドローを経た鉄虎にもすんなりと受け止められ、ストーリーを通して直接的な役割はほとんど果たせなかったにも関わらず、自分を卑下せずに着実に前に進んでいくのです。

 『無駄なこと』のテーマは今回、忍と兄弟ごっこをする颯馬にも重ねられました。颯馬の武士としての側面(と刀)は元々現代アイドル業界においては『無用の長物』扱いされがちな存在ですが、ズ!の頃には家の役目という存在意義が与えられていました。しかし、深海関係の宗教団体が解体されたズ!!においてはもはや役目は意味をなさず、颯馬自身も奏汰を神に戻したくないと願う以上は自ら別の拠り所を見つけなければなりません。そんな颯馬が今回掲げた武家の存在意義は「牙なき民を守る」でした。サブマリンも経て武士としての能力をアイドル界の戦争にも活かし始めた颯馬はいよいよ「家の役目」によらない「自分の役目」を掴んで無用の長物から脱していきます。

 後半、颯馬が提案する肉壁作戦も見事なものです。危険は承知ながらも無駄死にする気はさらさら無く、自分自身が『神父』や敬人にとって十二分に価値がある存在だと分かった上で、どちらに転んでも自分たちの勝利に繋がると確信した上での行動でした。

 存在意義という観点では、弓弦とみかのシーンも同じ切り口で読めます。それぞれ桃李/宗から離れて「自分らしさ」を探す二人。弓弦は全体への奉仕が巡り巡って桃李の幸せになるのだと役目を見いだし、一方でみかは周囲の助けも借りながら嵐のために行動します。死ぬために生まれてきたNEGIがPに報いるために行動し、「生まれてきて良かった」と笑えるのも同じテーマに貫かれているのかなと思います。

■テーマ読解:進んできた先の報い

 夢ノ咲編の結にあたる今ストーリーでは様々な形での「報い」が描かれました。夢を叶えた忍やマヨイ、これまでの道のりを無駄ではなかったと思える鉄虎、役割を見いだして嬉しい颯馬や弓弦、七夕で涙を飲み込んだ嵐に対するみかの報い、Pに報いたいアイドルたちや黒根姉弟、生まれてきて良かったと言えるNEGI、拾い集めてきた人たちからたくさんの「ありがとう」を受け取って肩の力が抜ける夏目。

 ひつぎが悪夢ノ咲の説明の中で語ったように「周りが何もかも未知であること」への原始的恐怖があるのだとすれば、未来に進むことは怖いことです。進んだ先の未来は未知そのものなのですから。それでも恐怖で目をそらさず、それぞれの道でより良い未来を目指して進んだからこそ得られた報いがあります。

 ブラックジャックはエピソードリンク(以下、エピリン)の形と被るところがあると感じます。特に夏目は追憶~エピリンの英智を彷彿とさせるような言動が何カ所かありました。追憶的な部分は「ありがとう、子猫ちゃん。僕の思い通りに踊ってくれて」(サンタさんは来ない4話。マリオネットでの英智⇒宗(なずなの伝聞))など。そしてエピリン的な部分は後半、追憶からの一連の流れを語った上で「我らの前途が闇に包まれることはないだろう」と魔法をかける場面(奇跡など起きない10話)です(これは大分余談ですが、奇跡など起きない8話での「ボクはこの世界を変える権利を得る」もエピリン英智の「(敬人に)せめて世界を変える権利を……」と被って大好きです)。

 エピリンではズ!!という不確かな未来に進むタイミングで、英智が次のような台詞を言います。

「ここですべてを終わらせて、綺麗な思い出にしてしまったほうが良かったと、きっと後悔するだろう」 「それでも、君が僕の、『fine』の未来を望むなら」 「僕は応えて、叶えよう。それが、アイドルだ」 「僕たちの愛する、アイドルだ」(エピリン:エピローグ③)

 場面としては桃李に対しての言葉ですが、こちらに視線を向けているスチルと合わせて私たちプレイヤー側にも語りかけているように感じられます。実際、エピリン公開当時はまだ新章(ズ!!)の情報はほとんど分かっていなくてかなり不安だったのですが、それを見透かしたようにして進む覚悟を見せてくれる彼らの(そしてこれを出してきた運営と日日日先生が描く)未来を見てみたいと俄然楽しみになったものでした。

 奇跡など起きない10話の夏目の台詞も、この英智の台詞と同じような役割を感じます。2023年3月現在、流星隊のパワーアップや夢ノ咲3年生の卒業イベント予告などで「さらに先へ進む」未来が現実的になってきました。未知の未来への恐怖はあれど、みんなでハッピーエンドを目指そうとする逆先夏目の魔法を頼りに、この先の展開を楽しみにしています。