【魔道祖師】原作+メデイアミックス駆け抜け感想

中華BLといえば…ということで名前は前々から知っていたが、いざ読んでみるとBL要素以外も含めて構成が面白く、かなり印象が変わった。

原作小説、アニメ、陳情令(スピンオフ2作含む)を一気に駆け抜けたので、各媒体まとめて感想を書いてみる。ラジオドラマは未履修。

なおネタバレを思いっきりしますが、この作品はネタバレなしで読むのが一番面白いと思っているので、未読の方には非推奨の記事です。

おすすめ履修順について考える

原作+メデイアミックスを短期間で立て続けに駆け抜けた。私はアニメ→陳情令→原作小説の順で履修してしまったが、個人的には各媒体履修するなら原作小説→メディアミックスの流れがわかりやすいだろうなと感じる。
後の項で各メディアの違いについて触れるが、メディアミックスは構成や設定がかなり変わっているので、わかりにくくなっている箇所や原作と印象が違う場面、設定違いの部分が多い。中国の表現規制の都合もあってBL要素がかなり薄められてしまっているというのもある。

原作小説は構成的にもわかりやすいし、当然BL要素も残っているし、ものすごく個人的に耳で聞いてるとキャラクター名が全然覚えられなかったのでずっとフリガナがついているのもありがたかった。メディアミックスを見ていると当然展開がわかってしまうわけだが、その状態で小説を読むともったいないことをしてしまった、とかなり後悔した。この作品はネタバレなしでジェットコースターに身を任せるのが一番体験として面白い。

全体の流れと二軸の展開

※以下、完全にネタバレがあります。

作品内容をざっくり表そうとすると「ホラー風味あり中華ファンタジーBLバラバラ殺人ミステリーライトノベル」。

公式ジャンルとしては「BLライトノベル」である通り、基本的には主人公二人の想いが通じていく様を描いたBL小説である(がっつり目の濡れ場もある)。ライトノベルらしいコメディタッチなシーンやお楽しみ描写もあり、文体も軽めに読める(翻訳体は少し慣れない感じはした。中国語からの翻訳小説の読書経験値が低いので、その慣れの問題もあるのかも知れない)。一方で、これでもかとドン底に落とすようないわゆる“地獄”の展開もどっしりとあり、緩急がクセになるストーリー展開をしている。中華BLは地獄になりがちな傾向があると噂に聞いたことがあるが、他の作品も気になるところ。

この作品の場合、BLライトノベル要素に加えて「バラバラ殺人ミステリー」がストーリーのもう一つの軸になっている。だからこそネタバレなしで読む方が楽しい。主人公二人のCPが成立することはジャンル特性上わかっているのでネタバレ的にはあまり問題ない。

主人公二人が探偵役となり、目の前に投げ込まれたバラバラ死体の身元と下手人を探っていく…というのがミステリー部分の軸。この作品がミステリー的なのは、最終的に、事件の全容と主人公二人にはあまり因縁がないという部分にも表れている。陰虎符の件など全く関係がないわけではないが、犯人役の金光瑶は探偵役の魏無羨にも藍忘機にも直接的な特別の関係があるわけではないし、被害者の聶明玦も二人とは生前大して絡みがあるわけでもないし、あくまで依頼者役の聶懐桑が二人を事件に巻き込んだからこそ物語が動いていく…という仕掛けになっている。この仕組みが、ブロマンス改作をされてもアニメや陳情令が成立しやすかった一つの要因だと思う。ミステリーを追っている内に二人の過去とそれぞれの想いが明らかになり、事件解決と共にBLの関係性も完成する流れ。原作はこの二軸の絡ませ方も上手く、読み応えがあった。

アニメ版の構成と改編

アニメは設定等は原作をほぼ踏襲しているが、構成の変更は大きめだった。原作のボリュームが厚いので駆け足気味なのは致し方ないと思う。アニメーションは綺麗で見やすく良かった。

気になる改編は二つ。

一つ目は過去編を一纏めにした構成になっていること。これは陳情令でも同じで、過去の流れをわかりやすくするための措置かな?と推察している。ただ、この構成だとミステリー部分(現代軸)がかなり長く断絶することになってしまい、現代に戻ったときに今どんな状態だったっけ?という状態になってしまった。アニメは約1クール分が丸々過去編になっているが、この忘羨の過去回想は現代軸の事件とは結局あまり関係が無いので、物語が分断されてしまっている感を強く感じた。聶明玦はともかく金光瑶の登場も相当遅くなってしまうというのもある(原作だとかなり早い時点で金光瑶に容疑がかかるし、二巻の前半で本人が出てくる)。また、過去編は本来連続した話ではなく、数年の間におきた出来事を小出しにする描き方だったので、一気構成にしてしまうと時間間隔がわかりにくかった。原作だと現代での状況悪化と過去編の状況悪化の対比も効いていたから、そこも少し惜しい気がする。

もう一つは江澄の金丹の種明かしが観音廟の"後"に変更されていること。この変更により、江澄の結末の印象が大きく変わっている。真実を知り、去りゆく魏無羨を見送る…というかなり喧嘩別れ色が強い印象だった。江澄、なんてかわいそうな…と思ったが、陳情令を見た際に展開が違ってあれ?となり、原作だと順番が逆だと知ってかなり驚いた。後の項でも書くが原作では観音廟で印象的な『ありがとう』と『ごめんなさい』のやりとりがあるので、魏無羨と江澄は元通りの関係には戻れないまでもある程度気持ちの整理がついた結末という印象になる。かなり印象が違うので、なぜこの改編になっているんだろう?と考えているがこれだと思いつくものがない。祠堂での三拝描写を最終回にやりたかったから?

陳情令の構成と改編

陳情令はアニメよりも諸々の規制が厳しいようで、屍の設定さえも変わっている。アクションシーンは派手で見応えがあるのと、どこをとっても美男美女といったキャスティングで眼福だった。

ストーリー改編については、話数や1話あたりの時間も長い分、丁寧に再構成しているなと感じた。過去編を一気にする構成になっているのはアニメと同様だが、孟瑶の聶氏所属時期を調整したり、独自設定の陰鉄を持ち込むことで過去編~現代編の事件を繋ぐ柱が生まれていた印象だ。暁星塵・宋嵐と魏無羨を直接接触させたのも義城編の唐突感が減って良かった(原作だとそもそも義城編が早い位置にあるが、アニメや陳情令の過去編一気構成だとどうしても後半に押しやられてしまうので、この期に及んで急に新キャラが何人も出てきた、という感覚になってしまう)。

聶懐桑の印象づけも濃くなっていたと思う。原作だと過去編での聶懐桑はあくまでノリの良い学友の一人、といった程度の絡みの印象だが、陳情令では一緒に事件に巻き込まれたりして出番がかなり増えている。座学の初日に小鳥を持ち込んでいる図太さ、とても好き。おかげで真相解明時のインパクトも大きくなる。さらに陳情令にはスピンオフ『乱魄』まであり、過去編時点の聶懐桑がただの役立たずではない味付けになっている。ただ『乱魄』だと懐桑がよかれと思って乱魄抄入り清心曲を明玦に聞かせてしまっており、地獄みが増しているのが味わい深い。それはあれだけのやり口で復讐をする…。

江澄に急に生まれたラブロマンス路線は相手がよりによって温情だったので、先の展開を思って江澄~…。となってしまった。江澄…。

『ありがとう』と『ごめんなさい』の儀式と因縁

話は戻って、以降は原作を軸に印象的な部分を。

特に後半にかけて、『ありがとう』と『ごめんなさい』が印象的に使われていたと感じた。

真っ先に思い浮かぶのは、乱葬崗から金鱗台に向かう温情が魏無羨に残した「ごめん。それと……ありがとう」。このやりとりで、魏無羨は江澄がどうしてあんなに「英雄気取り」の言動に腹を立てていたのかを実感を持って知ることになる。この気づきの描写がすごく良かった。

そして、観音廟での江澄と魏無羨のやりとり。陳情の受け渡しを介して交わされる、「すまない」と「ありがとう」。金丹の件を魏無羨が隠し続けていたことで最悪になっていた関係が、このやりとりによって若干の解決を見る。お互いに「すまない」と言うべきことがあって、お互いに「ありがとう」と言うべきことがある。どちらが先に約束を破ったかだとか、どちらがより悪いかとか、どちらがより感謝しなければならないとか、そんな因縁の応酬はあまりに複雑になりすぎていて、真っ平らに解決することはもう不可能。それでもここでお互いに言葉を交わしたからには一区切り。怨むに恨めず、感謝だけでもいられず、そんな複雑な心情が江澄と、あわせて金凌で描かれる。こういう一刀両断できない感情が大好き。

一方で金光瑶は『ごめんなさい』を言わなかったところが印象的だった。責められる度、彼はずっと「仕方が無かったのです」と言う。

この作品のさらに痛快なところは、『ありがとう』『ごめんなさい』、噛みしめたいな~と余韻に浸っているところで、忘羨二人が「二人の間にその言葉は不要」とさらにもう一歩突き抜けてしまうところである。そうだ、BLだった!!『ありがとう』と言いながらずるずると暗がりにおちていってしまった魏無羨、そのせいで『ありがとう』を恐れてしまった藍忘機。この二つの言葉で江澄との関係をある程度修復した魏無羨が、藍忘機とはもうそれすらも不要なのだとわからせられる最高の対比展開、痛快だった。

総じて

メイン二人以外のキャラクターも魅力的で、様々な角度から咀嚼しがいのある作品だった。キャラクターとしては特に三尊と懐桑のことを考えている。どうすれば良かったんだろう…と。

本編の後に全八編も番外編があるのも嬉しい。福利厚生。忘羨二人のいちゃつきをご褒美感覚で見守りつつ、江澄や金凌が大丈夫そうな様子が垣間見えて安心する…一方で立ち直れていない様子の藍曦臣がグサッときたりする。「なんだかんだ皆前向きに終わりました」にはしてくれない、番外編まで歯ごたえがある作品だった。懐桑の今後についてもぼんやりと考えている…。

多分今後も何度か咀嚼し直す作品になると思う。ちなみにかなり好みだったので勢いで同作者の別作品にも手を出し始めているところです。『天官賜福』3巻まで読みました、助けてほしい。